自慢しない自慢屋

*なぜこの人はこんなに自信があるんだろう・自慢ができるんだろう

という感想を抱かせる人がいる。いきなり電話してきたかと思ったら、自分の自慢話を始めて聞く方がうんざりしてきた頃に「それじゃあ」といって一方的に電話を切ったりとか。
 面白いのは、そういった自慢屋の人たちが「自分が自慢をしているとは一切思わない。ただの体験を話しているだけなのに、周りが自慢と受け取ってしまう」と主張している点である。傍から見ると、明らかに自分をよく見せようという意図が感じられるのに。しかし、自慢屋の人はウソをついている風でもなさそうだ。この一見の矛盾をどのように解釈するか?

*「自慢していない自慢屋」

 そもそも自慢とは何だろう。辞書を引いてみると『自分で、自分に関係の深い物事を褒めて、他人に誇ること』とある。そこから自慢が成立する条件を抜き出すと、「自分」「自分との関わりある物事」「褒める」「他者」「誇る」の5つになる。「自分」「自分との関わりがある物事」「他者」の成立は、自慢屋と評される者と、自慢屋と評する者の間で明らかに共有されるだろう。話している人がいて、話を聞く人がいて、話している内容が話者に関係したものであるかどうか、そういった当然の理解が共通していなければ、自慢云々以前の問題である。というわけで、両者の認識のズレは残りの「褒める」「誇る」の成立/不成立の認識の違いによるものであるといえる。
 このような「褒める」「誇る」のズレはどのようにして起こるのだろうか。まず、「褒める」のズレが発生する条件とは、それはつまり物事の良し悪しの評価基準が違う場合である。ある人にとってはなんでもないことが、別の人にとってはすごいことになるかもしれない。今の日本で自転車に乗れることなんでもないが、自転車が普及していない時代の人にとっては曲芸に相当するすごいことだろう。そういった評価基準の違いにより、「自分を褒めてないが、褒めていると受け取られた」ということが起こりえる。
 つぎに、「誇る」のズレについてだが、その前に前提に戻って、ほんとうに二つが成り立たないと自慢にならないのだろうか。人が自身を褒めるか、誇るかの条件の違いによってどのように受け取られるかを場合分けで並べると

褒める、誇る :自慢
褒めない、誇らない :恥
褒めない、誇る :自虐
褒める、誇らない :?

ここで問題なのが、「?」マークがついた「褒めるが誇っていない」という場合である。「自分に関わりある事柄を褒めるが誇っていない」という心理状態はあまりピンとこない。従って共感を受けることもあまりない。褒めていれば必ず誇っているとみなされることが多い。齟齬の大きな要因はここにあるのではないか。
 以上のことから、「自慢しない自慢屋」が成り立つ条件とは話す側と聞く側の「褒める」「誇る」のズレ、つまり物事の評価基準、または「自分を褒めるが誇らない」心理に対する認識、この2つの違いによって発生するといえる。

*「自分を褒めるが誇らない」心理とはなにか?

 「褒める」のズレ、事柄の評価基準のズレは環境・文化の違いであり、それが生じる可能性があることは相手の身分を知ることである程度予測かのうである。正体不明で予測できないのが、「誇る」のズレ=「自分祖褒めるが誇らない」という心理である、これは一体何だろうか。この問いはつまるところ、「誇る以外で自分の好評価を他者に知らせる」動機とは何かに置き換えることができる。
 誇る以外で自分の好評価を他者に知らせる」動機。すぐに思いつくところでは、高評価を伝えることによる影響(主に集団からの評価など実利的なもの)を得ること。たとえば、面接を受ける人間は自身の高評価ばかりを話す。しかし、そのような状況は周囲にも容易に認識されやすく、「自慢屋」が生まれるために必要なズレがあまりない。
 では、それ以外の動機とは何か。結論、

「思いつくこと、話すことがそれしかない」

 思いつくこと、話すこと、その選択肢のほとんどが自分の好評価で埋め尽くされているような状況であれば、上記のような状況に陥り、「誇る以外で自分の好評価を他者に知らせる」動機が生まれる。そして、そのような動機は理解され難く、自慢屋と評される者と自慢屋と評する者の間でズレが容易に生ずる。
 「自慢屋」の人が記憶するエピソードはそのようなものばかりであり、記憶を作り出す認知・認識のアンテナが自身の、高評価の事柄ばかりに向けてチューニングされているのではないだろうか。それゆえ、話すべきエピソードが限られ、“まったく意図せず・誇らず”自身の高評価の話ばかりしているという状況が成り立つと推測する。

*おまけ

 本記事の結論を応用して、自信がなく努力を積み重ねて能力を身に付ける余裕がない人に向けて、自分の高評価ばかりを記憶する「自慢屋」認知による手っ取り早く簡単な自信獲得方法を簡単ですが提案します。

  1. 興奮する
  2. 自分のこと、できることだけを見る
  3. 自分ができないことは、知らない・価値がない・なんとかなる
  4. すごい自分を思い出して興奮する